材質

材質

管体
管は木製が一般的で、グラナディラという黒くて硬い木が最もよく用いられている(よく黒檀の一種だとされているが、グラナディラはもはや黒檀だとはみなされない。
黒檀という名称は、現在は限られた数の樹木であるカキノキ科カキノキ属のために用いるように予約されている。
こちらを参照)。
グラナディラはアフリカのサバンナに生息する樹木で、クラリネットの管体として加工できるようになるまでには、樹齢100年近くも要するといわれる。
なお、グラナディラ自体は黒色であるが、楽器として加工する際には、割れを防止するなどの目的で亜麻仁油を染み込ませ、仕上げに黒い塗料が塗られる。
したがって、クラリネットの黒い管体の色はグラナディラ本来の色ではない。
廉価モデルではABS樹脂(合成樹脂の一種)製のものもあり、重量が軽く、取り扱いが容易なため、教育現場などで使用される。
また、以前はマウスピースと同じエボナイト製のクラリネットも製造された。
これらは、天然木につきものの「割れ」を心配する必要がないため、初心者に持たせたり、マーチングや野外応援用などに用いられることがある。
他に木製の楽器として、グラナディラ以外にローズウッドやココボロなどが採用されている。
メタル・クラリネットといい、真鍮や銀などの金属管で作られたクラリネットもある。
もともとは廉価な普及用に作られていたが、音色が木製の楽器に匹敵、またはそれを上回るという評価もあり愛好家も多い。
コントラバスクラリネットなど、大型のクラリネットでは、材木の入手困難性や耐久性の問題などから、金属管のものも少なくない。
最近では、セラミックを用いた楽器も製造された。
さらに、近年では良質なグラナディラの入手が困難となってきていることから、グラナディラの粉末とグラスファイバーなどを混合して成形した合成素材のものもある。
管体の材質についてはヤマハのページが参考になる。

キー
キーは、管の材質に関わらずほとんどが金属で作られており、以前はそのままの仕上げのキーが多かったが、近年では表面に銀メッキを施されているのが一般的である。
また、ニッケルメッキのものもある。
かつては木材や象牙でキーを製造した時代もあった。
キーの材質としては、洋白を用いるのが一般的である。
音色に影響を及ぼすことから、その金属配合比率やメッキの質・厚さなど、メーカーによって工夫が凝らされている。
キーの形状は楽器の外観、操作性に大きく関わることから、メーカーごとに意匠の違いがある。
ベーム式クラリネットでは左右の小指の替え指レバーが標準で装備されているため、ほとんどがヘラ状のレバーが用いられるが、エーラー式クラリネットでは小指で操作する替え指がないため、キーにはローラーが取り付けられ、指を滑らせて切り替えられるようになっている。
キーは素手で簡単に変形できるため、楽器の組み立て・分解の際には、キーを曲げてしまわないように注意を払わなければならない。
キーバランスの狂いは、タンポが音孔を正常に開閉できなくなって音質・音程に影響するほか、運指のミスにもつながる。
キーのうち、音孔を指で直接塞ぐ部分以外には、タンポが接着されている。
タンポに関しては次項で説明する。
また、キーの操作に際してキーが管体に触れる部分や、他のキーと触れる部分には、コルクなどが貼られている。
このコルクの厚みは、キーのバランスに影響する。

指かけ
クラリネットには、下管に右手親指で楽器を支えるための指かけが付いている。
指かけは主に金属製で、親指に当たる部分にはコルク製の薄いシートが貼り付けられていることがある。
また、一部のメーカーでは木製や樹脂製の指かけもある。
指かけは位置が固定されているものと、手の大きさに合わせて位置が上下に調節可能なものとがある。

サムレスト・クッション
人によっては指かけで楽器を支えていると、右手親指の第一関節が痛くなることがある。
このような場合に、柔らかい合成樹脂でできたサムレスト・クッションというアクセサリーを指かけに装着すると、痛みを軽減させることができる。

材質2

材質2

ストラップ
右手親指でクラリネットを支える場合、楽器が重くて運指に支障をきたしたり、特に右手親指に負担がかかり指を痛めてしまうことがある。
このような場合、ストラップという首にかける輪で楽器を支えると、このような問題を解消できる。
ストラップの輪は合成繊維で編まれた紐や平たいベルトが一般的で、首に当たる部分には革製、ナイロン製、あるいは綿布製のパッドが付いているものもある。

タンポ
音孔のうち、指では直接開閉できない部分をカバーするためにキーに取り付けられた、円盤型で柔軟性を有するパーツである。
指が届かない範囲に音孔を設ける場合や、指での開閉に連動して隣り合う音孔を開閉する場合など、さまざまな部分に用いられている。
クラリネットのタンポの素材としては、フェルトをフィッシュスキンで包んだものが一般的である。
フィッシュスキンと言っても実際は羊の腸皮で、プラダーと呼ばれることも多い。
また、サクソフォーンと同様、革を用いる場合もあり、アルトクラリネット以下の低音楽器は全て革タンポが一般的である。
レジスターキーのタンポにはコルクが用いられることが多い。
また、近年では合成皮革やハイテク素材、廉価版にはスチロールを用いたものもある。
屋外で使用されることが多いプラスチック製のクラリネットや、扱いに不慣れな初心者向けのクラリネットでは、耐久性や価格の面から合成素材を用いる場合も多い。
さらに、音質を改善する目的で、タンポの中心にレゾネーターと呼ばれる反響板類似の小片を取り付けたものもある。
タンポは、通常、シェラックと呼ばれるラック虫が分泌する液から生成する天然素材の接着剤でキーに固定される。
タンポは、指の代わりに音孔を開閉するものであるから、音孔に確実にフィットし、また必要に応じて即座に離れなければならない。
したがって、その厚さ・傾き・固さなどは、音質に大きく影響する。
これを調整するには長年の熟練が必要である。

バレル(樽)
ベーム式B♭クラリネットのバレルバレルは、マウスピースと管体とを接続する部分であるが、音色や吹奏感に大きく影響する。
このため、近年では、クラリネットのメーカーがさまざまなバレルを製造するなどして趣向を凝らすことはもちろん、多くのメーカーがさまざまな素材、さまざまな管体形状の互換バレルを生産している。
また、バレルの長さが楽器全体のピッチを変化させるため、各メーカーとも、長さの異なる純正バレルを何種類か用意していることが通常である。
世界的には、概してヨーロッパではピッチを高く、アメリカでは低く合わせるので、欧州向け製品には短めのバレル、アメリカ向けには長めのバレルを付けているようである。
チューニングの際、バレルの抜きしろが多くなるほど、音程は低くなり、場合によっては上管と下管の間、下管とベルの間を抜いて調整する。

ベル
ベルベルは、マウスピースの反対側に位置する部分であり、閉管楽器のクラリネットといえども、この部分だけは円錐形をしている。
一部のクラリネットではベルにも音孔とキーが取り付けられていることがあり、また音質・音程への配慮から、穴が開けられているモデルもある。
これに倣って、自らベルに穴を開ける奏者もいるようである。
上述の通り、ベルには音孔もキーもないことが一般的で、軽視されがちであるが、楽器全体の音色に影響することが認識され始めている。
このため、前述のバレルと合わせて、互換ベルだけを生産するようなメーカーも増えてきている。

材質3

マウスピース
マウスピース唄口は、硬質ゴム製が最も一般的である。
もともとは木製であった。
現在でも木製の歌口を好む奏者も多い。
クリスタル・マウスピースといって、ガラス製のものもある。
音色が丸く、愛好者も多い。
硬質ゴムの中では長らくエボナイトが使用されてきたが、硫黄分を多く含んでおり、硫化によってキーのメッキが変色したり、人体への影響が懸念されるなどで、近年ではアクリル樹脂やABS樹脂を用いたものが増えてきている。
また、管体と同様、セラミックスを用いたものなどもある。
音色に重大な影響を与えることから、管体の選定以上に気を使う奏者も少なくない。

マウスピース・パッチ
マウスピース・パッチは、マウスピースの前歯が当たる面に貼るアクセサリである。
薄いものから厚いものまで各種販売されている。
材質は合成樹脂で、片面にはマウスピースに貼り付けるための糊が付いている。
マウスピース・パッチを貼り付けた方がいいか貼り付けない方がいいかは考えが分かれるところである。
前歯がマウスピース上で滑るのを防ぐためにマウスピース・パッチを貼り付けた方がいいとする意見がある反面、前歯が滑るようでは楽器の構え方が正しくないとする意見もある。
また、マウスピース・パッチを貼り付けない方が音色が良いという意見もある。

リード
リードは葦製がもっとも一般的である。
クラリネット用のリードは、多くの場合、すぐに楽器に取り付けて使用できる完成品の形で供給されるが、原木や半完成品を仕入れてきて自作するプレーヤーも存在する。
原材料となる葦の主な産地としては、南フランス、オーストラリア、アルゼンチンなどがある。
畑から収穫された葦は、数年間乾燥させられ、その後、必要とされる厚み、幅に応じて切り出される。
形状を整えるためには、コンピューター制御のメイキングマシンを使うメーカーもあるが、小規模な工房などではすべて手作業で行うところもある。
完成品のリードは、厚さ・コシの強さなどを器械で測定し、一定のグループごとに箱詰めされる。
「番号が大きくなる順に固さが増す」とする場合や、「Soft/Medium/Hard」、「Light/Medium/Strong」など簡易な分類とする場合、さらにこれらを組み合わせて細かな設定をする場合など、メーカーによってさまざまである。
なお、これらの表示は個々のメーカーが定めた独自基準にすぎないため、同じ固さの表示でもメーカーが異なれば吹き心地が変わることが多い。
リードの固さは、使用するマウスピースやリガチャー、奏者の好みに応じて、適切なものを選択する必要がある。
一般に、開きが狭く、あるいは短くなるほど硬く厚いリードを用い、逆の場合は薄く柔らかいリードを用いるとされるが、個人の好みもある。
マウスピースメーカーによっては、おおむね推奨される範囲の固さを示している場合もあるが、これを超えるリードを使ってはいけないという意味ではない。
葦製のリードは、気温や湿度の影響を受けやすい。
そのため、工場出荷時点での品質と、プレーヤーの手許に届いた時点での品質が異なることがあり得る。
これを克服するため、検品後に密封し、プレーヤーが開封するまでは同じ湿度を保てるようにした製品が出回り始めている。
また、その日の演奏環境や、使用後の保存状態などにより、リードの状態は刻々と変わり続ける。
これをいかに管理するかが良いリードを使い続けるポイントとなり、またプレーヤーの悩みどころでもある。
このために、湿度を任意の範囲に保てることを謳う商品もある。
クラリネットのリードには、大きく分けてフランス管用とドイツ・ウィーン管用がある。
後者を、ドイツ管用とウィーン管用に、さらに細分するメーカーもある。
フランス管の方が内径が太いためマウスピースが大きく、その分リードの幅・長さが大きくなるが、フランス管用のマウスピースにはドイツ・ウィーン管用のリードを使えるケースがある。
もっとも、本来想定されている使用方法ではないため、マウスピースとリードの相性や、奏者との相性によって、実用にならないことも多い。
プラスチック・リードといって、合成樹脂で作られたリードもある。
また、木材を溶かし込んだ特殊な繊維を圧縮して作られたリードもある。
天然素材でない分、気温や湿度の影響を受けにくく、長持ちするといわれるが、音色の点で敬遠する奏者もいる。
前述の通り、リードは高度なマシンや熟練した職人の手で作られ、精度は非常に高いが、輸送過程での僅かな変質や変形は避けられず、またマウスピースの個体差やプレーヤー個人の歯並び・アンブシュアによって、必ずしもそのまま使えるとは限らない。
そのため、自分にとって最適なバランスとなるように、調整することも必要である。
リードの調整には、目の細かい紙ヤスリやナイフが用いられる。
ナイフは、リードを加工するためのリードナイフもあるが、総じて高価である。
リードの調整にはノウハウが必要で、また微妙な力加減も覚えなければならず、修練が必要である。
また、調整が必要とはいっても、調整さえすればすべてのリードが実用に耐えるわけではないことに注意しなければならない。
とくに初心者は、その問題がリードに起因するのか、楽器自体の不具合か、奏法が誤っているのか、正しく認識できないことが多く、ともすると「リード弄り」に明け暮れてしまうおそれもある。
良いリードを選び、作ることは良い演奏の助けとなるが、リードの良し悪しを正しく判定できるだけの、確固とした演奏力も不可欠である。
クラリネット用のリードメーカーとしては、Vandoren(ヴァンドーレン・仏)、Glotin(グロタン・仏)、Rico(リコ・米)等が有名であるが、他にも数社が世界的に供給を行っている。
国産メーカーとしては2008年よりFORESTONE(フォレストーン・日)が竹繊維を原材料としたリードを販売している。
また、小規模な工房を営み、ハンドメイドの良さをアピールするメーカーも増えている。
尚、近年の異常気象もあり、一部の人気ブランドについてはその入手が困難になるほど需要と供給の バランスが崩れている。
その中にあって、最近では南米(アルゼンチン)産のリードが市場に進出しはじめており、 今後の高品質リードの供給源として期待されている。

リガチャー
リガチャーリガチャーは、リードを唄口に固定するための器具である。
古くは紐が使われており、リードを唄口に巻きつけて固定した。
現在でもエーラー式のクラリネットを使用する場合に一般的に用いられている。
ベルト状の皮または合成皮にねじを付け、リードを唄口に締め付けて固定する皮製のリガチャーは、現在広く用いられている。
安価なところでは皮の代わりに合成ゴムを使用したものもある。
金属製のリガチャーも皮製と同じぐらい一般的に使用されている。
形状は皮製と同様のベルト状のものや、リガチャーがリードや唄口に接触する部分を極力減らすように金属棒で作られた多角柱の骨組みのようなものもある。
リガチャーは、クラリネットの音源となるリードの振動を受け止めるものであるから、音色にも影響する。
影響の大きさは、奏者だけに吹奏感や音色が違って感じられる軽微なものから、誰が聞いても明らかなほど音色が変わる大きなものまでさまざまである。
奏者にしかわからない影響ならば無意味だと思えるかもしれないが、演奏は精神的な作業であるので、吹き心地のよさは奏者のイマジネーションを刺激してより表現豊かな演奏をもたらす重要な要素である。
おおよそ、皮などのやわらかい素材のリガチャーはリードの振動を吸収し、柔らかい音色になる。
これは、リードの振動エネルギーをリガチャーに逃がしてしまうということでもあるため、金属製のリガチャーに比べ同じ音量を得るのにより強い息を吹き込むことになる。
その反面、音の暴れは金属製に比べて少なく、固有の音色が乗りにくいことから、愛用者も多い。
金属製のリガチャーは、リードの振動を吸収しにくいため、より弱い息でも楽に音量を出せる。
特に高次倍音(俗に音色の芯などと呼ばれる)が吸収されずによく響くので、よく通る音を楽に出せる。
また、素材やメッキの音を意図的に載せることで、好みの音色を作り出すことも可能である。
もちろん万能のリガチャーなどというものはなく、奏者の演奏スタイルに適切なものが選ばれる。
リガチャーは奏者だけではなく、職人にとってもこだわりがあるようで、大手メーカーから街の楽器店まで製作を手がけ、実にさまざまなオリジナル・モデルが販売されている。
唄口、リード、リガチャーは密接な関係にあり、ひとつを変えても吹奏感や音色が大きく(ときには演奏不可能なほどに)変わることがあり、組み合わせとして捉えて慎重に選ばなければならない。
もちろん楽器本体との相性も絡んでくる。

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